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タイのスマートエレクトロニクス産業 課題はサプライチェーン全体の育成

タイ政府は電気電子産業の次世代コアとなるスマートエレクトロニクス産業の育成に力を入れている。タイの電気電子産業が生み出すGDP が製造業全体に占める割合は15%であり、金額は199億5200万米㌦に及ぶ(2021年統計)。ただ、2017年から21年までの5年間、年平均成長率は約3%と低成長が続いている。また、2018年から22年までの5年間、電気電子製品輸出額の年平均成長率はベトナムが36.4%であるのに対し、タイは6.7%と伸び悩む。

タイの電気電子製品が輸出額は徐々に拡大しているものの増加率が他のASEAN主要国と比べて低い背景には、ベトナムはタイより人件費が安いため投資が集まりやすく、その一方でシンガポールとマレーシアはハイエンド商品がタイより優位に立っているなどの事情がある。ベトナムがスマートフォン、プロセッサー・コントローラー、電子集積回路、有機EL フラットパネル・ディスプレイ・モジュールに力を入れているのに対し、タイは記憶装置・電子集積回路・空調設備といった従来の産業に依存しており、タイ電気電子研究所のクリサダ副部長は、このままでは成長できず、新分野の育成が必須であると強調する。

このためタイは現在、安全性・繁栄性・持続可能性のバランスを取りながら中所得国の罠、および格差・不公正からの脱却などを目的とする「20 カ年国家戦略」(2017~36)の下で開発が進められている。同戦略では、技術イノベーションにより経済発展を推進し2036年までに高所得国の仲間入りすることを目指す。

高度専門技術サービス提供を実現するための重点産業にタイ政府が指定するのは、短・中期的にはスマートエレクトロニクス、次世代自動車、富裕層向け医療・ウェルネスツーリズム、農業・バイオ技術、未来食品の5 業種。そして長期的には、ロボット、医療ハブ、航空・物流、バイオ燃料・バオケミカル、デジタルの5 業種が加わる。そして、マートエレクトロニクスをこれらすべての産業の根幹に置く方針だ。

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スマートエレクトロニクスを重点産業として位置付ける

ところで、スマートエレクトロニクスの定義であるが、自立分散型のエネルギーシステムを有し、他のデバイスに常時接続(同期)されているインテリェント小型デバイスとなる。機能としては、制御、自律的作動、センシング(計測・数値化技術)が組込まれる。

タイ政府の指定する重点産業発展のためにはこのスマートエレクトロニクス産業をしっかりと育成することが必要不可欠となる。スマートエレクトロニクス産業の促進は、タイが他国から輸入する部品への依存を減らし、貿易赤字を削減するのに役立つほか、関連産業を高付加価値製品メーカーにアップグレードする上で重要な役割を果たすためだ。

「第13次国家経済社会開発計画」(2023~27)でもスマートエレクトロニクスを重点産業として位置付ける。同計画では、タイをASEANのスマートエレクトロニクスおよびデジタル産業のハブとするため、2027年までにタイのスマートエレクトロニクス産業の輸出シェアを電気電子産業の輸出総額の60% まで引き上げる。さらに、同年までに「スマートエレクトロニクスシステムインテグレーター」のようなスキルを持つ人材を40万人規模に拡大する。

この目標を実現するための政策として、①従来の受託生産だけでなく高度技術を活用した受託開発を奨励②スマートエレクトロニクス重要部品のASEAN 生産拠点となるよう支援③独自ブランドの創出や育成を奨励④先端技術の研究開発投資を奨励④最適な規格を開発しデバイス同士の連携性を向上⑤外国投資誘致―などを進めていく考えだ。

ASEANにおけるスマートエレクトロニクスのハブを目指す

タイ工業省も、第13次国家経済社会開発計画を元に、スマートエレクトロニクス産業の発展へ向けた行動計画を策定。フェーズ1(2023 ~27) の目標は、2027年までにASEANにおけるスマートエレクトロニクスデバイスおよびシステムの製造・技術ハブとなることであり、この目標は昨年12月27日の閣議で承認されている。フェーズ1 では、スマートエレクトロニクス産業のサプライチェーン全体への高度技術導入を目指す。具体的な指針としては、まず2027年までにタイのスマートエレクトロニス産業の輸出額を電気電子産業の輸出総額の60% に引き上げる。

そして、同年までにスマートエレクトロニクス産業の研究開発により生み出されるGDPを産業部門全体のGDPの1%以上とする。そのための施策として、まず内外の投資により上流工程(IC 設計・ウエハー製造など)の高度技術が必要な分野を育成。また、自社内でスマートエレクトロニクスの設計を行うなど中流・下流工程の技術・人材高度化を図る。その後、自社での新商品・製品開発を可能にするほか、起業家(スタートアップ)を支援する。

これらと並行して、タイ国内需要を喚起。スマートエレクトロニクス活用の民需を支援しスマートファクトリー、スマートファーム、スマート製品などの新市場を開拓する。最終的には、環境に配慮したスマートエレクトロニクス製品の設計を奨励し、そのための人材育成センターを開設することになる。

サプライチェーン開発では上流⼯程への投資誘致推進が急務

スマートエレクトロニクスのサプライチェーン開発であるが、タイが弱いのは半導体・センサー・マイクロコントローラーなど電子構成部品を製造する上流工程だ。タイには重要材であるシリコンウエハーを大量生産できる工場がない。そのため、シリコンウエハー製造への投資をタイ投資委員会は最重視する。この上流工程をタイ国内で育成するためには、インセンティブを整備し、投資誘致を積極推進することが急務となる。

中流工程では、プリント基板や組み込みソフトなどのOEM生産をODM生産へと成長させることも課題のひとつだ。そのためにはスタートアップ育成がキーポイントとなる。そして、下流工程で最大テーマとなるのが、スマートホーム・工場・農場・病院、シティー・オフィスなど新市場の開拓だ。

タイ電気電子研究所「⾏動計画の実施なくして成⻑なし」

タイの電気・電子製品の輸出額の伸び率は現時点では低いが、前述のスマートエレクトロニクス産業発展のための行動計画を実行した場合、輸出額を引き上げることができるとタイ電気電子研究所のクリサダ副部長は自信を示す。スマートエレクトロニクス産業発展に向けた行動計画を実行した場合、2027年時点での輸出成長率は22年比22%増となり、輸出額は470億米㌦に到達。その結果、スマートエレクトロニクス産業の輸出額は、電気電子産業輸出総額の60%に達すると予測する。

その一方で、行動計画を実行しない場合の成長率は7%に過ぎず、輸出額も410億米㌦止まりと試算している。

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