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世界市場で急成⻑続ける宇宙産業 加速する⽇タイ宇宙交流

日本とタイの宇宙分野における交流であるが、日本が1987年2月19日、種子島宇宙センター(鹿児島県)で日本初の地球観測衛星となる海洋観測衛星「もも1号」(MOS-1)を打ち上げたことに始まる。この際、タイ地理情報・宇宙技術開発機構(GISTDA)の前身であるタイ国家研究評議会(NRCT)よりMOS-1観測データを受信したいとの申し入れがあったことから、東南アジアほぼ全域が受信範囲となるタイに地上受信局を設置することが決まる。そして、バンコク都のキングモンクット工科大学ラートクラバン校が設置場所に選ばれた。

その後、日本は92年2月11日に地球資源衛星「ふよう1号」(JERS-1)を打ち上げ、タイ側での観測データ受信が続く。タイの受信局では、日本からタイに派遣されたリモート・センシング技術センター(RESTEC)のタイ駐在代表が94年から96年まで衛星受信技術を指導し、日タイ宇宙技術協力の推進に貢献した。

日本はさらに、1996年8月に地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)、2002年12月に「みどりⅡ」(ADEOSⅡ)を打ち上げるが、この2 機のタイでの受信はなかった。タイ側は受信設備予算を確保したものの、1997年に起きたアジア通貨危機により購入を断念している。

その後、2006年に打ち上げた地球観測衛星(陸域観測技術衛星)「だいち1号」(ALOS)でタイでの受信が再開。14年打ち上げの「だいち2号」(ALOS-2)ではデータ中継衛星を通じて日本にデータを送れるよう技術が進歩したこともあり、タイでの受信は不要となったが、GISTDAはデータ提供機関としての役割を担うことになった。

現在、日本とタイの関心は衛星データ利用に移っており、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)とGISTDAは同分野での事業協力MOUを締結。衛星データ利用では日本のベンチャーの果たす役割が注目されていることから、JAXAではこれらベンチャーを積極的にサポートしている。

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宇宙関連イベント「Thailand Space Week 2023」

全世界の宇宙産業であるが、過去10年で急速に拡大しており、米宇宙財団の報告によると、前年からの平均成長率は約8%、2022年の経済規模は5460億米㌦に及んでおり、今後5 年間で8000億米㌦に達すると予測されている。

このなか、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)は、宇宙ビジネスにおけるグローバルバリューチェーン構築を主目的とするアジア最大規模の宇宙関連イベント「Thailand Space Week 2023」を2023年10月24日から27日までクィーンシリキット国際会議センターで開催した。参加国はタイ、日本のほか、シンガポール、英国、フランス、中国。日本は日本パビリオンを設置するなど約20社が参加、日タイ宇宙協力のおいて存在感を示した。ブース訪問者は、政府機関関係者、軍関係者、大学関係者が目立った。

2 つに大別される宇宙ベンチャー事業

タイでJAXA などの衛星技術利用に関するプロジェクトに25年間従事し、現在、チュラロンコン大学理学部で客員教授を務める本澤雅彦氏(写真)によれば、宇宙ベンチャーの事業は2つに大別される。

まず、日本の得意技である小型衛星を開発・設計・製造・販売する事業。通常の衛星と比べてサイズ・重量ともに縮小されるため、ロケット内部の隙間を利用して打ち上げることで経費を抑えることができる。衛星の重量であるが、大型は500㌔、小型は50㌔がひとつの目安となる。

そして、もうひとつが衛星データを利用・分析する事業だ。データには、発射したレーダの反射を利用するレーダ画像、およびカメラで撮影する光学画像の2種類がある。レーダで得られるデータは処理が難しいが、夜であっても雲があっても影響されることなく、さらに高低も測定できることから、地上のジオメトリ(形状)を把握できる。そのため、地盤沈下など地形の変化が分かり、地形の詳細に知る必要がある高速道路・空港建設にかかわる企業にとり非常に有用なデータとなる。日本では高速道路の老朽化調査にドローンを使うこともあるが、衛星データではより広い範囲をカバーできる。これに対し、写真撮影は地図などに利用される。

小型地球観測衛星を設計・製作・運用 ~ AXELSPACE

「Thailand Space Week2023」に出展した「AXELSPACE(アクセルスペース)」(東京都)は1 ㍍四方・重量100㌔以下の小型地球観測衛星を自社で設計・製作・運用。2008年創業の同社は現在、2つの事業を並行して展開している。まず衛星の製作・販売。これまでに9機を製作しており、うち4機を外販した。残り5機はカメラを搭載し衛星軌道上から写真撮影を行い、撮影した写真をそのまま販売して日本全土のベースマップなどに利用されることもあれば、その写真を加工・分析することで得られたデータを販売したりもする。撮影写真を加工・分析することで、例えば病気に感染している植物の分布エリアを特定することができる。これらのデータは農業や森林監視などの分野で重用されている。

深澤達彦取締役兼AxelGlobe 事業本部長(写真左)によれば、同社では自社衛星とタイGISTDAが所有する衛星を共用するプロジェクトを検討中だ。工学写真は夜間撮影ができず、雲があると地表が写らないため、データの総量を増やすため衛星数は多いに越したことはない。ただ、異なる種類のカメラを搭載している場合は調整が必要となるため、これをどのように補完していくかが課題になっているという。

小型合成開口レーダ衛星を開発 ~ SYNSPECTIVE

一方、この撮影条件に左右されるという光学衛星の欠点を補うのがSAR(合成開口レーダ)衛星だ。レーダを発射し反射を受けることで肉眼で見えないものを可視化させる技術のためデータ処理は大変だが、全天候・全時間帯で地上観測が可能となる。ただ、レーダ衛星は多くの電力を必要とするため、大型の太陽電池パネルやバッテリーが必要となり、この点が小型化の足かせとなっていた。

15年程前から衛星に開口レーダーを搭載させ地上を観測する技術はあったが、当時のSAR衛星は1000㌔を超えるものあった。ここで、100 ~ 150㌔程度に小型化した衛星の開発に成功し、コスト面も開発費用と打上げ費用を合わせ大型SAR衛星の約20分の1を実現したのが、小型SAR 衛星開発を行う衛星データソリューションプロバイダーである2018年創業の「SYNSPECTIVE(シンスペクティブ)」(東京都)だ。

レーダ観測データの提供対象は多岐に及び、経済トレンドの分析データとしても利用されている。レーダ画像は撮影条件に左右されることなく24 時間撮影可能なため、世界の主要港での船の出入りを見える化することで、アナリストが世界主要港のトレンドを比較するための基礎資料として利用することもある。

また、立体的に地表・表面をとらえることができるため、海の波の形状から風速を推測し、洋上風力業者に対し、風の強い場所、ファームがどう影響し合うかなど調査段階で必要となる基礎情報を提供することもできる。ただ、舟木覚マーケティングマネージャー(写真)は、見ればわかる光学画像と加工が必要で手間のかかるレーダ画像は補完関係にあるとも指摘する。例えば、森林のバイオマス(再生可能な有機性資源)を調べる際、まず光学画像で樹木の種類を判別。と同時に、レーダ画像で樹木の高さの平均値を出す。これにより森林のバイオマスが判明し、カーボンクレジット(オフセット)の基礎情報としての活用が可能となる。

高度精密加工技術で宇宙産業を下支え ~ 由紀精密

衛星は不具合が起きたとしても簡単に修理できない。そのため、部品には高度の精密加工技術が必要となる。今回、出展した由紀精密(神奈川県)は航空宇宙産業で使われる加工の難しい工材を精密加工する技術をPRした。JAXAのプロジェクトではスラスターと呼ばれる方向制御のための重要部品の精密加工を請け負った。同社は顧客ニーズに合わせて設計・製造を行うが、現状、半分程度が宇宙産業向け部品となっている。松本幸子・開発部特命担当兼宇宙事業担当シニアマネージャー(写真)によれば、ベンチャーから部品設計・開発に関する相談が増えているという。同社では現在、前出のスラスターユニットの委託開発だけでなく、自社開発にも着手。宇宙産業の成長を下支えしている。

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