トヨタ紡織グループ、基準年繰り上げでCO2 削減加速
タイのプラユット前首相は2021年10月31日から11月12日まで英国スコットランド・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、2050年に「カーボンニュートラル」、2065年までに「ネット・ゼロ・エミッション」の達成を目指すという新たな目標を提示し、気候変動課題に真摯に取り組むとする強い意志を示した。
1957年にタイに進出したトヨタグループの自動車部品メーカーとしてシート・内外装・ユニット部品の開発・生産をグローバル展開する「トヨタ紡織グループ」も環境問題への取り組みの指針として「2050年環境ビジョン」を2016年4月に策定。ここで「環境チャレンジ目標」として、二酸化炭素(CO2)排出量については、2025年までに2019年比で25%削減、2030年までに2019年比で50%削減、そして2050年までにCO2排出量を実質ゼロにしてカーボンニュートラル(CN)を実現するとの目標を掲げた。
CN実現に当たり、トヨタ紡織グループが優先課題とするのが再生可能エネルギーの導入と省エネ改善活動の推進だ。2020年に発表した「2025年環境取り組みプラン」では2025年までに再エネ導入率を15%にまで引き上げるとした。地域統括会社として2001年6月にバンコクで設立された「トヨタ紡織アジア(以下TBAS)」が統括する域内グループ会社の太陽光発電による再生可能エネルギー導入率は現在約14%であり、2030年度の目標30%達成に向けて今後さらに拡充していく方針だ。
このなか、課題となっているのが、非稼働日に使いきれない太陽光余剰発電電力の有効活用だ。現在タイでは規制により発電した電力は自社内のみの使用に限られ、社外に流すことができず売電もできない。そのため、費用対効果を検証の上、蓄電池や水素発電装置の導入を検討している。
⾷堂から出る残渣も省エネに活⽤
トヨタ紡織社長直轄組織であるカーボンニュートラル環境センターでは40項目からなる省エネ事例集を作成。グループ企業内で共有されている。内容は❶空調・照明コンプレッサー・ファン・ポンプを省エネタイプに変更する❷使わない機器の電源を切り節電に努めるなどで、その“徹底”が求められる。
このほか、プラスチックごみの軽減にも積極的に取り組んでおり、例えば、TBAS社内の売店でコーヒー・ティーなどドリンクを購入する際は、可能な限りマイカップを持参することを推奨している。受け入れ教育時にはリサイクルについて十分に説明し、ゴミの分類を徹底させる。業者が回収する前に社内でゴミ分別が適切に行われているかどうかの再チェックを行う。
TBASでは環境保護のための技術開発も推進。フレーム構造を見直すなどしてシートフレームの軽量化に取り組んできた。軽量化はCO2削減に貢献するからだ。TBAS安全・環境・ユーティリティ部の加賀一貴ゼネラルマネージャー(GM)によれば、同社独自のサーキュラーエコノミーへの新たな取り組みも展開。食堂から出る残渣を特別な装置に入れてバイオガスを発生させ、食堂での調理用ガスとして再利用するほか、その過程で出来る堆肥と液肥の有効利用法も調べている。液肥については、Morning Glory(空心菜)を栽培するなどして液肥の有効性を検証している。
スタートアップのプラットフォームに関⼼
近年、事業提携・商談等でも環境対応への真摯度は年々重視されているようであるが、加賀氏も、環境保全を軽視した商品・製品・サービスの取引は難しくなってきていると指摘する。顧客もサプライヤーに対し環境に優しい部材等の使用を求めているという。
環境関連セミナーおよび見本市では、CO2見える化のための製品・サービスの展示・紹介が目立つようになった。タイ石油公社(PTT)などタイ大手企業ではCO2見える化対策など環境対応においてスタートアップとの提携を推進。トヨタ紡織グループもスタートアップのプラットフォームに関心を示しておりTBASでもトライアルを実施しているが、これまでのところ自社で見える化を行っており、他社プラットフォームの導入には至っていない。
CO2 排出量は、その排出源別によってスコープ1、2、3に分類される。自社における燃料・ガスなどの燃焼による直接排出量がスコープ1、電力やスチームなど購入したエネルギーが排出源となる間接排出量がスコープ2、サプライチェーンでの排出量を含めスコープ1と2以外の間接排出量がスコープ3となる。今後、スコープ3を含めたCO2排出量削減が企業に求められることは確実視されており、TBASでも新たなCO2見える化システム導入を検討してはいるものの、「自社のみならずサプライヤ―との連携が重要」と加賀氏は指摘。そのため、選定は慎重にならざるを得ないという。
カーボンオフセットには慎重姿勢
トヨタ紡織グループは当初、CO2削減目標の基準年(ベースイヤー)を2013年としていた。しかし、現在はこれが2019年に変更されており、達成がより困難になっている。ベースイヤーを変更した理由であるが、パリ協定で合意された水準に整合する企業の温室効果ガス排出削減目標であるSBT(サイエンスベースターゲット)の認証を取得するため、基準年をより最近のものに変更する必要があったからだ。この動きに他社も追随する可能性はあり、CO2削減目標達成がより難しくなる状況を容認せざるを得ない企業も出てきそうだ。
ここで目標達成のための手段として注目されているのがカーボンクレジット購入によるカーボンオフセット。加賀氏によれば、省エネ改善・太陽光発電システムの追加導入などまだ改善すべき点が残っているため、まずはここに着手。ただ、2025年環境取り組みプランの目標は達成する必要があり、かつ厳しい数字でもあるため、ある程度のカーボンクレジットを購入する必要性は否定できないという。
その一方で、海外企業の中にはカーボンニュートラル目標を見直す企業も出ている。その背景にあるのが、単にお金を払うことで環境に優しい企業と見せかける「グリーンウォッシュ」に対する反発だ。加賀氏もこのグリーンウォッシュには批判的な目を向けており、支払ったお金が本当に環境保護のために活用されているのかどうか、今後の同業者の動向を注視してるとのことだ。