11月の総合インフレ率ーー軽油価格上昇で下半期最大に
タイ商務省貿易政策・戦略事務局(TPSO)のプンポン局長は12 月4 日、今年11 月のヘッドライン・インフレ率(変動幅の大きい生鮮食品価格とエネルギー価格も考慮した総合インフレ率)を前年比0.95%増と発表した。ヘッドライン・インフレは23 年10 月に25 カ月ぶりで前年比減となって以来、6 カ月連続のマイナスとなっていたが、今年4 月以降は一転してプラスが続いている。
11 月にインフレ率が上昇したのは、政府補助などにより前年の価格がかなり抑えられていたことで軽油(ディーゼル)の価格上昇率が高かったこと、一部の飲料品価格が高止まりしていることーなどが主な理由。ただ、その他の品目に大きな値動きはなかった。
今年10 月時点でのタイのヘッドライン・インフレ率はプラス0.83%となっており、世界132 国・地域中、下から23 番目の低い数値となっている。また、ASEAN では8 カ国(タイ・ラオス・フィリピン・シンガポール・インドネシア・マレーシア・ベトナム・ブルネイ)が経済統計を公表しているが、タイのインフレ率は下から2 番目に低かった。なお、昨年通年の平均インフレ率は1.23%であり、139 カ国・地域中、下から数えて第9 位だった。
11 月のタイ国内物価上昇率であるが、飲食品を除く主要品目の物価は前年比0.70 %増となった。主要品目で値上がりが特に目立つのは、ディーゼル(軽油)およびベンジン(ハイオク)。このほか、レンタルルーム、フライト、理髪・美容、スクールスの料金が上昇した。これに対して、ガソホール95、日用品(シャンプー・ボディーソープ・スキンケア品)、衛生用品(食器用洗剤、トイレ洗浄剤)、男女衣類などは値下がりした。
アルコール飲料を除く飲食品の価格については前年比1.28%増となった。値上がりしたのは、生鮮果物(ランプ―タン・マンゴ・バナナ・スイカ・ドリアン・竜眼など)、コーヒー、清涼飲料水、調味料、調理済食品、牛肉、豚肉、鶏肉、エビ、精米、小麦粉など。一方、値下がりしたのは、生鮮野菜(なす、白菜、パクチー、トマト、キュウリ)、唐辛子、鶏卵、乳製品、植物油などであり、このためデリバリー食品の価格も幾分低下した。
ヘッドライン・インフレ率の指標となる11 月の消費者物価指数(CPI)は108.47(基準年は2019 年)で、前年比0.95%増となった。また、エネルギー価格と生鮮食品価格を除くコアインフレ率は前年比0.8%増となり、前月(24 年10 月)比も0.77%微増している。
タイ商務省は今年のヘッドライン・インフレ率を0.2%~0.8%(中央値0.5%)と予測。また、2025 年のインフレ率であるが、同省では0.3%から1.3%のレンジを予測する(中央値0.8%)。インフレ率上昇の要因としては、(1) 民間投資と民間消費の拡大、訪タイ観光客の増加により商品およびサービスに対する需要が高まること、(2) タイ国内のディーゼル価格が24 年第1 四半期および第2 四半期の平均価格を上回ることが確実であること、(3) 「1 万バーツ給付プロジェクト」により市民の消費支出が拡大することーなどを挙げる。これに対し、インフレ抑制要因としては、(1) タイ政府が電気料金引き下げやLPG 価格固定を断行する見通しであること、(2) エルニーニョおよびラニーニャの影響で高止まりしていた生鮮野菜と果物の価格が落ち着くこと(3) 不動産部門と国内自動車販売の低迷が家賃と自動車価格の上昇を抑えることーなどを同省では指摘する。
生産者物価指数(PPI)
生産者の卸売価格を指数化した生産者物価指数(PPI)であるが、今年11 月は前年比0.1%減の111.2(基準年は2015 年)、前月比では0.3%増となった。PPI は企業業績・株価の先行指標ともなり、上昇が続いた場合、物価高騰を嫌った消費者の買い控えによる経済回復の遅れなどが危惧される。
11 月の部門別PPI であるが、工業製品部門は前年比0.4%減。石油製品、PC エレクトロニクス製品、化学製品、鉄、鉄製品、食品などで指数が低下した。鉱業部門は前年比17.2%と大きく減少。原油、天然ガスの価格が低下したためだ。また農業漁業部門はサトウキビ、アブラヤシ、天然ゴム、ドリアン、パイナップル、エビ、豚などの重要が高く、8.8%の伸びを示した。
消費者信頼感指数(CCI)
消費者信頼感指数(CCI)は、労働市場、経済状況、および将来の支出に対する消費者の見方を示す経済指数。この数値は失業率、インフレ率、および実質所得と関係がある。つまり、消費者が将来のビジネスに対して前向きな見通しを持っている場合、消費者は支出と投資を増やし、それにより経済全体が改善する。逆に、消費者が信頼感を欠く場合、将来の経済活動は停滞する。
11 月のCCI は、前月の52.9 から53.2 へと増加。2022 年12 月以来、20 カ月連続で「信頼感のある範囲」にあったが、今年7 月、8 月と連続して50 を割り「信頼感のない範囲」へと入っていた。
しかし、9 月は再度50 の壁を超え、10 月、11 月とさらに数字を伸ばしている。この背景として商務省は、❶社会的弱者への1 万バーツ給付など政府の経済対策が奏功したこと❷タイ産農産物の需要が拡大したことで輸出額が増えたこと❸観光客の増加が観光産業の回復を後押ししたことーなどを挙げている。
製造業生産指数(MPI)
工業省工業経済事務局(OIE)が11 月27 日に発表した今年10 月の製造業生産指数(MPI)は93.41 で前年比0.91%減となった。ただ、前月比では0.7%増加している。
MPI は過去最長の18 カ月連続でマイナスとなり、今年4 月にようやくプラスに転じたが、5 月、6 月とマイナスが継続。しかし、7 月は輸出が過去28 カ月で最大の成長率を実現したことでMPIの伸びを後押ししたが、8 月は再び落ち込みをみせ、9 月はさらに指数を下げた。しかし、10 月は僅かに持ち直している。 MPI は2016 年を基準年(=100)として製造業の生産活動を指数化したものであり、景気動向を判断する指標となっている。