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「日タイ企業交流会」 ⽇泰スタートアップ スマート農業ソリューションを紹介

タイは農業従事者が就業者全体の約3 割を占め、国土の4 割以上が農地という世界有数の農業大国。しかし、農業のGDP シェアは10%未満にとどまっており、農業技術の革新および高付加価値作物への投資がタイ政府の課題となっている。

一方、日本はカロリーベースの食料自給率が4 割弱で、先進国の中で最も低い水準にある。近年、高齢化による労働力不足、気候変動による生産性の低下など農業問題が多様化しており、さい生産から消費までのサプライチェーン全体で生産性向上とサステナビリティをいかに両立していくかが、重要な検討課題となっている。

そこで、両国の課題解決に貢献するため、東京都中小企業振興公社タイ事務所はタイ工業省と連携し、日タイ企業によるサステナビリティと生産性向上の共創を目的としたイベント「日タイ企業交流会2024 GreenTech Business」を10 月29 日、バンコク都内のホテルで開催。スマート農業ソリューションなどを推し進める日タイのスタートアップの取り組みを紹介した。同イベントの冒頭、タイ工業省工業経済事務局のアヌワット・チュリントン上級顧問は、「低い売値では農家の収入は増えない」と農業分野における付加価値向上が優先課題との認識を示した。

登壇した東京都の⽇系スタートアップ

Nihon Agri (Thailand)

タイで取り組んでいるスマート農業の事例を紹介したのは2016 年に日本で創業した農業スタートアップ「日本農業」(本社:東京都品川区)のタイ法人「Nihon Agri (Thailand)」だ。日本農業は日本産青果物(りんご、イチゴなど)をタイをはじめとする東南アジアに輸出している。

 タイ国内で流通しているイチゴであるが、タイ産が約8 割。これに米国産、豪州産、韓国産が続き、2016 年の統計では日本産は0.2%に止まる。日本産は高品質であるが、輸入品の多くは1 パック1000 バーツを超え、なかなか手が出ない。このなか、美味しいイチゴを手ごろな価格で届けたいとの思いから、コロナ禍直前の2019 年、同社は北部チェンマイ県でイチゴの栽培を開始した。ただ、暖かいタイでイチゴを栽培するのは難しく、病害虫対策も日本と比べ難易度が上がる。バンコクで販売するにあたり、チャンマイからのコールドチェーン・サプライチェーンをどう繋いでいくかなど課題は山積みだった。

そこで、温室を複数作り、外部環境と分断することで害虫の侵入を防ぐとともに、50 を超えるセンサーを設置して温度・湿度を24 時間365 日監視。収集したデータに基づき冷却を制御した。このほか、データロガーを備えた温度制御トラックによる配送で、配送損失を最小限に抑える努力は今も継続している。同社のイチゴは現在、「SAKURA ICHIGO」の商品名でバンコクを中心に1 パック189 バーツからの価格で販売されている。

栽培開始当初、コロナ禍で両国の行き来が制限されるなか、日本からリモートで農業指導をすることが多かった。ただ、技術を伝えればそれで終わりというわけではなく、日本の技術をタイでどう活用していくかが重要であり、そのため、この点が判断できるメンバーを現場に置くことが必要不可欠という。さらに、熱帯タイでの栽培においては、どこまでお金をかけて冷やすかの線引きが必要であり、日本の方式をそのまま導入するのではなく、タイの気候を生かす生産方法、タイならではの生産方法を作り上げることが重要と訴える。

現在、需要に生産量が追い付かない状況であるが、同社はイチゴの栽培は儲かるとしてタイの農家が参入することで、タイでの事業をさらに拡大していきたい考えだ。これはタイ政府が標榜する農作物の高付加価値化による農家収入引き上げにも合致しており、同イベントのタイ人司会者は「洪水の原因のひとつである焼き畑農業の解消にも貢献できるのではないか」と期待感をにじませた。

エアロセンス

農業分野でのドローンとクラウドの活用を進めるのは国産ドローンメーカー「エアロセンス」(本社:東京都北区)だ。2015 年設立の同社は、国産機で初となる垂直離着陸型固定翼(VTOL)ドローンを2020 年に発売。24 年6 月にはこのVTOL型ドローンとして国内初となる第二種型認証を取得した。

一般にドローンといえば小さい機体を思い浮かべるが、小型の機体では飛行高度50 ㍍、飛行距離5㌔が限界。これに対し、同社のVTOL 型ドローンは高度500 ㍍、距離50 ㌔に及ぶ。さらに開発中の新型機体の飛行距離は150 ㌔に達する。これ以上の高さ、距離を求める場合、選択肢はヘリコプターもしくはセスナに限定されてしまう。

同社が提案するのは、点検・調査・測量のための広範囲の撮影で、ヘリやセスナではなく、ドローンを利用することだ。リアルタイムに映像を送信することで飛行中から状況を確認。さらに、クラウドで三次元データの可視化・共有も可能となるため、現場をより直感的に把握できる。北海道の事例ではマルチスペクトルカメラを使用してNDVIを作成することで、田の窒素含有量を可視化。これにより肥料の総量が減少し、収穫量がアップした。

現状は積載量1 ㌔、飛行距離50 ㌔が最大であるが、新型機体の投入により来年後半には10 ㌔の積載、150 ㌔の飛行が可能となる。これによりハワイ諸島を3 つの機体でカバーできる。同社はタイでの活用を強く希望している。

BEAM Technologies

「BEAM Technologies」(本社:東京都千代田区)は、光半導体デバイスを開発する理化学研究所発のスタートアップ。特殊な光を用いて生態系にまつわる問題に対しクリーンな解決手段を提供する。タイにおいてはエビとグリーンキャビア(海ブドウ)の感染症対策に対するタイ水産局との共同研究が進んでいる。

2050 年半ばに世界人口が100 億人に達すると予測されるなか、食料危機への懸念が強まっている。ここで現在注目されているのがFCR (Feed Conversion Ratio) と呼ばれる指標だ。

これは1 ㌔の食物を作るために必要とされる肥料の量を示すもので、牛は8 ㌔、豚は3 ㌔、鶏は2.2 ㌔となる。これに対し、鮭は1.1 とだいぶ軽減されるが、養殖地は北半球の涼しいエリアに限定されるため、タイは除外。一方、エビは1.2 ~1.3 と非常に効率がよく、養殖地としてもタイは適している。

エビの世界市場は2023 年453 億㌦、今後10 年で1200 億㌦にまで成長するといわれているが、ここで養殖の課題となるのが、餌、労働、水質と感染症の管理の3 項目だ。特にタイは2013 年にエビの養殖地で感染症が発生。それまではエビ養殖のリーダー的存在であったが、翌年に生産量が半減するという深刻な事態を引き起こした。いまだに回復途上であり、水産局も具体的な解決策のないことを懸念している。

ここで同社がタイ水産局に提案しているのが、波長の短い紫外線(Far-UVC)により感染症抑制をマネジメントとする技術だ。通常の紫外線(UVC)は細胞に到達するため、細胞を壊し、癌化するため危険。しかし、Far-UVC は表面でとどまり、細胞に入り込まないため、殺菌効果を持ちながら傷害性は非常に低い。コスト、殺菌技術、安全性を兼ね備えた感染症対策へのソリューションといえそうだ。さらに、エビは糞をするため水が汚れるが、Far-UVC 照射により水も浄化される。現在、タイ水産局と感染病予防のための実験を行っているが、今後は、エビ、海ブドウのほか、貝にも実験範囲を拡大していく予定という。

TAMURA

次世代活水化装置「ディレカ(DELIKA)」の製造・販売などを通じて環境改善に関する提案を行う「TAMURA」(本社:東京都千代田区)。同社の代名詞のひとつでもあるディレカは、水が本来持つ性質を最大限に発揮させる活水化装置だ。構造であるが、フィルターは使わず、外側がステンレス鋼材、内側には天然鉱石をパウダー状にして樹脂に練り込んだ遠赤外線

放射材とイオン発生装置を搭載している。水道水や海水がディレカを通過することにより、マイクロバブル、さらにマイナスイオンが生成され、高度な水の活性化を図ることができる。水を活性化させることで、細胞内のエネルギー供給源であるミトコンドリアまで栄養を運ぶことができるため、農作物の場合、糖度や収量増が増す。この技術は日本の大規模な牧

場や養殖場でも採用されており、栃木県のイチゴ農家はそれまで10 ㌃の平均収穫量が平均4.5 ㌧だったものが、7.2 ㌧に上昇。また、沖縄県のマンゴ農家でも収穫量が30%アップした。さらに通常1 本の木から80 ~ 100 個を収穫していたところ、200 ~最大で300 の収穫が可能になったという。

テクノブレイブ

ソフトウエア事業を展開する「テクノブレイブ」(本社:東京都千代田区)のグループ会社「TECHNO BRAVE ASIA」は、電力を使用せず長期間高鮮度を保つ環境に優しい特殊保冷技術、およびIOT デバイスにより低コストでトレーサビリティ・自動モニタリングを行う次世代生鮮品物流ソリューションを提供している。同社は2021 年から22 年にかけて、日本政府(水産庁)の支援を受け、日本からの水産物輸出のため、この技術を開発した。同社の特殊冷却技術であるが、発泡素材のスーパー冷却ボックスを使用することで、冷凍することなく8℃以下の温度を118 時間(約4 日間)キープすることが可能となる。このため、省電力が実現でき、また冷凍車と一般車に分けていた輸送を1台に集約できることから輸送コストが削減される。なお、冷媒を変更することでマイナス70℃といった温度設定もできる。さらにこのボックスは電波が透過するため、電子タグを取り付けることで、輸送ルートや温度などのデータをクラウドに保存し、タブレットやスマートフォンなどを通じて追跡できる。この電子タグは自動的に積み下ろし回数もカウントができるため、降ろし間違えを把握することも可能だ。

米国は2026 年1 月からは食品トレーサビリティ規制をスタートさせる。食品トレーサビリティ・リスト(FTL)に含まれる食品(マグロ、ハーブ・トロピカルフルーツ・甲殻類など)を製造・加工・包装・保管する施設は、トレーサビリティーに関する記録保存が義務付けられる。特定の免除が適用されない限り、この規則は米国に輸入されるFTL 記載食品を製造・加工・包装・保管する外国人にも適用される。このため、今後、同社サービスに対するタイでのニーズは高まっていくことにもなりそうだ。

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